TMI入所から約半年が過ぎた夏の晩、伯耆は先輩たちとの会食の席にいた。多くの先生たちと近くで接することができる貴重な機会だ。ところが、美味しいはずのお酒も料理も、伯耆の喉を通らない。その数時間前、所内の弁護士・弁理士が全員参加する定例会（BB会議）が開かれていた。LBO（レバレッジド・バイアウト）ファイナンス案件の業務報告をしたパートナー弁護士が、こう締めくくった。「このチームに入りたいという若手の弁護士がいれば、ぜひ声をかけてください」　その先生の間近の席で、会食は始まった。思い返すと、伯耆がTMIを選んだ理由は2つあった。ひとつは接した先輩たちが明るくさわやかで、人間的な魅力に溢れていたこと。もうひとつは、若手の働き方だ。若いうちからの果敢なチャレンジを全面的に推奨している。いまがそのときだと、伯耆は思い切って話しかけた。「先生、先ほどのLBOの件ですが、私にやらせてください！」　先生は伯耆の顔をしげしげと見ながら、優しい表情で即答した。　「うん。その姿勢は買うけど、キミにはまだ少し早いな」　まるで意外な反応だった。その晩のお酒は、とても苦かった。

最初の挫折を味わったのは、高校生のときだった。吹奏楽部に所属していた伯耆は、クラリネット兼指揮者として、50〜60人の部をまとめる役割を任されていた。先輩たちの代までは毎年、県大会で上位に選ばれていたプレッシャーもあったのだろう。伯耆は指揮者として厳しい練習を求めながら、うまく演奏できないメンバーに寄り添うことができない。まとまりに欠けたまま臨んだコンクールは、地区大会で惨敗となった。　進学校にいながら部活動ばかりで勉強が疎かになっていた伯耆に、吹奏楽部の顧問の先生は言った。「部の先輩がいい大学に進学できなかったら、後輩も安心して楽器をできないだろ」　この言葉に奮起し、文系で最難関とされる法学部の合格を果たした。　だが、大学でも勉強は二の次だった。吹奏楽のように仲間たちと一緒にゴールに向かう魅力にとりつかれ、学園祭の実行委員としても活動する。そんな中、1年生の憲法の授業で社会的弱者を保護する弁護士の存在を知る。なんて素晴らしい仕事なのだと思い、旧司法試験を3年生・4年生のときに受けた。1度目は惨敗、2度目もあと一歩のところで届かない。人生2度目の挫折となった。　次のチャンスに向け、法科大学院へと進学する。当時は弁護士の就職難の時代でもあり、同級生や先輩たちは伯耆を心配した。「お前、いまロースクールなんて行って大丈夫なの？」　全国から集まってくる優秀な学生の中で、自分が劣っているのは明らかだった。はたして、卒業できるのか。司法試験に合格しても、弁護士になれるのか。大きな不安を振り払うかのように、必死に勉強に打ち込む。そうして伯耆は法科大学院修了後の1回目で、司法試験に無事合格した。どうにか授業についていけたのは、自主ゼミでチームを組んだ優秀な仲間たちのおかげだ。彼らは最後まで、ライバルでもある自分に寄り添い、手を差し伸べ続けてくれた。

TMIに入所した新人弁護士はまず、ローテーション制度の下でさまざまな法領域に触れることになる。知的財産や個人情報保護法、訴訟や株主総会などの多様な業務を経験したのち、伯耆が不動産ファイナンスに関わったときのことだ。クライアント担当者とパートナー弁護士の会議に同席しメモをとるが、全く議論についていけない。新人にわからないことがあるのは当たり前とはいえ、それまでに経験した他の業務分野の会議と比べても、全くのお手上げ状態だった。だが、伯耆はこう思った。これがわかるようになったら面白くなるに違いない。理解するのが難しい仕事こそ、最も挑戦しがいのある仕事のひとつなのではないか——。ドラフトする契約書は約200ページに及び、ほぼすべてのページに先輩からの厳しい修正とコメントが入る。修正対応にただただ必死の毎日だったが、少しずつ内容を把握できるようになっていった。　その矢先、あの定例会での報告を聞き、LBOファイナンスに興味を持ったのである。実務の基礎もまだまだ十分ではない段階にありながら、別領域のファイナンスに関わりたいというチャレンジは、確かに時期尚早だ。あの晩、先輩弁護士から「まだ早い」とのジャッジを下されたのも無理はない。だが、落ち込んでいても、何も始まらない。伯耆は自ら課していたルーティンワークにいっそう力を注ぎ始めた。毎週の仕事の振り返りである。1年目の新人弁護士には毎日のように、先輩からのフィードバックが届く。「以下の内容でクライアントに送っておきました。伯耆先生へのコメントも入れたので、確認しておいてください」　目の前の仕事に対するスピードが要求される中、毎日の確認作業は新人には追いきれない。そこで、パソコンにつくった復習用フォルダに、一旦すべて投げ込んでおくことにした。週末や時間が空いたときに1週間分のフィードバックをまとめて再確認し、わからないところは週明けに質問する。「えっ、伯耆、いまか？　わかった、とりあえず15分な。続きは夜でいいか？」　新人とはいえ、クライアントから報酬をいただく仕事に関わっている以上、少しでも役に立てるように、スキルを上げていかなければならない。伯耆はそんな思いに駆られていた。　復習用フォルダに加え、携わった案件に関連する文献や裁判例にはくまなく目を通した。そうして迎えた入所1年目の暮れ、あの先生が、伯耆に声をかけた。「LBOファイナンスの新しい案件が入ったけど、やってみるかい？」　伯耆のがむしゃらな姿勢を評価してくれていたことを知った瞬間だった。

入所1年目のもがきが、その後もさまざまな形で実を結び始めた。2年目になると、週明けにいつも質問攻めしていた先輩から、新しい案件に誘われたのだ。「面白そうな船舶ファイナンスの案件があるんだ。LBOチームも忙しいだろうけど、こっちでも頑張ってみないか？」　参加してすぐに、その面白さに伯耆は惹かれていった。外国船籍の船が世界中を航行するため、どんな場面でどの国の法律が適用されるかは状況によって変わってくる。外国の弁護士と連携したり、船籍登録等のために世界各地の当局と連絡を取り合ったり、業務の中で日常的に英語も駆使したりする。　この経験が、また次の仕事へと繫がった。入所3年目で関与した宇宙関連の案件である。そのパートナーは、冗談めかしながら、伯耆にこう言った。「宇宙船もスペース・シップだから、まあ、同じようなものじゃないかな。一緒にやってみない？」　こうして伯耆は、いまでは大所帯になった2つのチームの立ち上げ時のメンバーとして、TMIの業務領域の拡大に携わってきた。　一方で、1年目に手を挙げたLBOファイナンスに関しては、入所4年目に大きな手応えが感じられる案件を担った。クライアントは、船舶関係の事業も行う企業である。TMIには、LBOファイナンスと船舶ファイナンス双方に専門家チームが存在するため、両方をワンストップで進めることができた。契約内に齟齬を生じさせないように統一的なレビューを示せるのに加え、スピードも早い。そのチームの中心に、伯耆がいた。LBOファイナンスと船舶ファイナンス双方に関与してきた経験が、思わぬところで生きることになったのである。　日本国内におけるLBOファイナンスの実務はアメリカから導入されたものが主体だが、ロンドンを中心とするヨーロッパ市場ではアメリカとはまた異なる実務がある。それを学ぶため、伯耆は入所6年目にキングス・カレッジ・ロンドンに留学した。　留学先では、国際金融法やヨーロッパにおけるファイナンス実務をはじめとして、これまでの実務を通じて学んできた分野の知見をさらに深めることになった。臨んだ各プログラムはいずれも、現在の実務の成り立ちや議論の趨勢を踏まえ、理論を高い精度で追及していくものだ。そこでは、具体的なケースを題材とした、積極的な議論が求められる。「うーん。今日もかなり手強かったな…」　複雑なケースの法的分析と処理には、これまでの経験を通じた自信があった。にもかかわらず、他国の同年代の弁護士を含む世界各地からの留学生たちとの議論には、ついていくのがやっとという日も少なくない。楽しさよりも悔しさの勝る留学初期の日々だったが、伯耆は少しでも多くの学びを得ることを目指し、ひたむきに努力を続けた。徐々に議論をリードできる機会も出てくるようになった。こうした挫折と克服の経験は、伯耆にとって大きな刺激となり、新たな自信を少しずつ得る機会となっていく。　ところが、留学半年後の3月、帰国を余儀なくされる事態となった。世界中を覆った、新型コロナウイルスの感染拡大である。授業はオンライン形式で継続されたが、問題となったのは留学2年目の研修先だ。予定していたロンドンの事務所は全員がリモートワークとなったため、研修の受入れが困難になってしまったのだ。「外部での新しい経験を積めないまま、TMIに戻らなければならないのか…」　モチベーションが下がりかけた伯耆に、TMIのある弁護士から連絡が入った。「INPEXさんが、リーガルチームに出向できる弁護士を探しているけど、行ってみないか」

株式会社INPEX（旧国際石油開発帝石）は2008年、国際石油開発と帝国石油の合併により、世界26カ国で72のプロジェクトを手掛ける国際的な企業として発足した。採掘権益取得という上流事業の持続的拡大、ガスサプライチェーンの構築とガスビジネスの積極的展開に加え、脱炭素社会に向けた多様なエネルギーを供給する企業への成長を目指している。日本の国益をインフラ・エネルギー面で支える伝統的な国策会社を源流とする企業でありながら、内実は非常にグローバルな会社でもある。　社内外ともに行われている英語によるグローバルなコミュニケーションや、M&amp;Aやファイナンスの幅広い知見が求められるなど、これまでの伯耆のキャリアがクライアントの要望と一致し、英国帰りというタイミングもあって声がかかった。法律事務所の中のことしか知らない自分が、企業に出向する。そのことが不安であったと同時に、これほどチャレンジングな機会もないと思った。　出向から約1年、伯耆にはずっと感じてきたことがある。　INPEXのリーガルユニットは、国内外の法律事務所で10年以上の経験を積んできた、各法域のスペシャリスト揃いだ。「あなたがそう言うのなら、検討し直さないとマズいな」などと、経営層や各事業部からの信頼は絶大だ。チームの中で、日本法に関する判断は、伯耆に委ねられる。TMIを代表して来たからには、期待を超える働きをしたい。つねに大きな緊張感がついて回るにもかかわらず、なぜか居心地がいい。この感覚はどこからくるのだろう。その理由が、あるときふとわかった。　INPEXで伯耆が実際に携わっている仕事は、海外の油田・ガス田の権益に絡むリーガルサポートがひとつの大きな柱だ。もうひとつの柱は、水素をはじめとする新たなエネルギーの研究開発、国内外の再生エネルギープロジェクトに関する投資、カーボンクレジットに関する取引などのリーガルサポートになる。INPEXは、歴史あるエネルギー企業として油田・ガス田開発に取り組みつつ、未来のエネルギー開発にも積極的だ。　つまり、尽きることのないパイオニア精神が、TMIの文化と相通じるのである。そんな雰囲気に身を置くことが、きっと自分は好きなのだと思う。過去に固執しすぎることなく、変化していく環境の中でいかに社会の役に立てるだろうかと、新たな領域も貪欲に追求していく——。目指すべき弁護士像が、伯耆の中でより明確になった。　自分に足りないものも新たに見えてきた。弁護士事務所へと依頼する前段階で、社内の営業担当者や法務担当者がどれだけ多くの議論や検討を社内で重ねているのか。そのことに考えが及ぶようになったのだ。社内で収集した膨大な情報を、ほんの2、3時間の打合せで弁護士に伝えることは無理がある。にもかかわらず、TMIで外部のカウンセルとして弁護士業務を行っていた頃は、クライアント担当者に対してこう思ってしまうこともあった。　こんなに重要な点をどうして伝えておいてくれなかったんだ…。　だが、情報の的確なピックアップは、クライアントにとって負担になっていたに違いない。本来なら結論を左右するような重要なポイントは、こちらから引き出していくべきものである。実際に、INPEX側のインハウスロイヤーとしてTMIの先輩弁護士に案件を依頼すると、ポイントをしっかりと見抜いて示してくれるのだ。「ここと、それにここも、議論しておかないといけないよね」　こうした配慮が自分にはまだまだ足りないのだと、伯耆は痛感させられた。　TMIの先輩たちは、クライアントを外側からサポートすると同時に、所内のメンバーたちを成長させ、いかにチームを育てていくかを大切にしている。自分もそれに倣って、毎年迎える後輩たちに向き合っていけたらと伯耆は思う。クライアントに対しても、所内に対しても、自分が属しているそれぞれのチームの成長を意識して仕事に向き合っていきたい。そんな日々は、また次のチャンスを呼び込む引力ともなるに違いない。　そして、いつか自分で新たな領域のチームを立ち上げ、定例会の場でメンバーを募ってみたい。というのは、気が早いだろうか。

海外留学を終えた弁護士6年目、世界を舞台に資源開発を手がける日系企業への出向者に抜擢された伯耆。スペシャリストたちが顔を揃えるリーガルユニットの一員となり、内側からクライアントをサポートしている。入所から5年間のどんな経験やどんなスタンスが、この出向に繫がったのか？出向先でいま、どんな役割を担い、どんな気付きを得ているのか？

育ててくれたチーム、育てていきたいチーム


うちのチームの女性弁護士が1年間の育休・産休に入ることになり、正社員としての中途採用も含めて後任を探していましたが、適任だと思える人になかなか出会えませんでした。そこで、外部からの出向も視野に入れ、TMIの弁護士にコンタクトして相談したところ、推薦されたのが雄介です。明るく、ガッツと馬力に溢れた若者といった第一印象でした。

ヒロさんから最初にかけられた言葉は、よく覚えています。「出向者だから、既にできることだけを担当してもらいたいとか、これをやらせないということは一切ない。INPEXのリーガルチームの一員として、INPEXの業務を理解して、しっかり成長してTMIに戻ってほしい」と。どうせ戻っていく出向者は育てても仕方がない、というスタンスもあり得るのかなと心配していましたので、ヒロさんの言葉でとても安心しましたし、気持ちが引き締まりました。「よろしくお願いします！」と答えました。

出向者は基本的には所属先の法律事務所へと戻りますが、それも投資だと私は思っていますので、プロパーの従業員と区別することはありません。INPEXリーガルのやり方や文化を理解して事務所に戻り、さらに力をつけてくれて事務所で当社の仕事をサポートしてくれるようになれば、お互いのベネフィットになります。日本語ができて、石油、天然ガス、エネルギーの業界が分かる弁護士は貴重な存在です。そういう人材を1年間お預かりしている立場として、伝えられるものは全部伝えたいという里親のような気持ちでいます。

INPEXは、私が中途入社した2013年当時で創業から60年。日本最大級の石油・天然ガス開発会社でしたから、インハウスのリーガルチームが存在しないのは極めて異例でした。長年にわたって法務部が存在しなかった会社のリーガルチーム設立を任せていただくにあたって何より重要なのは、社内に弁護士がいる存在意義を感じてもらうことに他なりません。ですから、大手法律事務所で10年以上経験を積み、高いパフォーマンスと誠実さを持った即戦力の弁護士を採用し、タイムリーかつ的確な法的アドバイスを提供できる体制を整えてきました。現在は、大陸をまたいで世界中に34名の弁護士が所属しており、弊社の事業内容にあった専門性の高い人を迎え入れながら、ワンチームとしてリーガルサービスを提供しています。 　インハウスと外部弁護士の最大の違いは、問題が起こったときだけではなく、プロジェクトの立ち上げの初期段階から、プロジェクトのライフサイクルの最後まで立ち会うということです。だからこそ、事業部の人たちと密なコミュニケーションが取れますし、社内にリーガルチームがある最大の強みになっています。

TMIにいるときにも、クライアントとは密なやりとりを心掛けているつもりでしたが、会社内の組織に入るとサポートの性質が全く違いました。外部ではどうしてもコミュニケーションに限界がありますし、究極的には、クライアントにアドバイスをする以上の関与が担保できないという感覚は拭えません。インハウスでは最終的な経営判断まで責任を持って関われるので、よりきめ細かなサポートをすることができます。

雄介が語ってくれたコミュニケーションの限界というのは、確かに大きく異なるでしょう。弁護士はタイムチャージ制なので、打合せ中に世間話をすることにも気を使いますが、インハウスならインターナルコストなので定額使い放題ですから（笑）。

ヒロさん、そこはもう僕らは敵いません（笑）。

何より、インハウスは他部署とも同じチームの一員ですから、「我々は弁護士と依頼人という関係ではなく、ワンチームなんだよ」と、INPEXリーガル全員に伝えています。リーガルチームに求められている役割は、会社の利益を法的な観点から守り、健全な経営判断をサポートすることです。対立関係になるのではなく、事業部のやりたいことを理解し、最初から最後まで責任をもってサポートすることを大切にしています。他にもコラボレーションや助け合う精神、誠実さ、ダイバーシティ、フラットな組織、信頼関係など、INPEXリーガルとして大事にしている価値観はいくつかあります。

その価値観がメンバーに根付いているのがすごいです。私がオイル&amp;ガスやE&amp;P（Exploration &amp; Production／石油・天然ガスの開発・生産・販売事業）に関して経験がない状態で出向したのにもかかわらず、他のメンバーに教えてほしいと言えば、皆さんが丁寧に教えてくれます。一方で、プロジェクトの中では「最年少だから、出向者だから」という扱いではなく、対等なメンバーとして責任を持たせてもらえる。全員がフェアに能力を発揮できる土壌だからこそ、このチームで楽しく働けているのだと感じています。

ワールドクラスの法務部をつくることを目指しているので、いかにメンバーが心地よくパフォーマンスを発揮できるかは重要です。フラットなチームの方が高いモチベーションで一人ひとりが業務に携われると思いますし、「何か問題が起きたときは、加藤がクビを差し出してくれるだろう」という信頼関係を持ってやっています。

当社のアセットの大半は海外ですが、INPEXは国内でも事業・操業をしているので、国内案件の法律相談も数多くあります。しかしながら、日本法の弁護士は数少ないので、雄介にも案件を一つ一つ効率よく処理してほしいと期待していました。私自身も日本法の弁護士ではないので、「分からないことがあれば外部の法律事務所の方に聞けばいいし、完全に任せる。その代わり、何か問題があれば責任はこっちが持つ」と話しました。 　ひとりで回すには大変な案件量だったと思いますが、この1年間よくやってくれたと思います。期待以上の努力家で、ディテールまで丁寧な仕事をしてもらい、粘り強さも目を見張るものがありました。チームの中で最年少ではありますが、一軍選手ですし、このままINPEXにほしいくらいです（笑）。

ありがとうございます（笑）。

コロナ禍で出社ができない特殊な状況ではありましたが、チーム全体にも好影響がありました。中でも一番大きかったのは、リーガルに異動してきて1年半ほどの若手社員の成長です。彼女はまだ弁護士資格がなく、将来アメリカのロースクールに行く予定ですが、雄介と一緒に複雑な案件もサポートする中で、ディールの進め方、リスクの考え方など、学ぶことの多い1年になったと思います。

案件のハンドリングは基本的に私がやっていますが、スケジュールの組み方や、事業部への共有、外部の弁護士とのやり取りなど、法的な専門性を必要としないところを彼女に任せていました。法的な話であっても、きちんと彼女の中で整理できていれば、事業部への説明や、会議のハンドリングも任せています。 　彼女が来年アメリカのロースクールに行って弁護士資格を取り、日本に戻ったらすぐに高いレベルでの活躍が求められます。であれば、僕がここで勉強させてもらい、一員として受け入れてもらったチームへの恩返しとして、彼女にいまできる範囲で成功体験を積んでもらえたらいいな、と…。

「メンター、メンティーの関係でよろしく」と私から明確に伝えたことはなく、自然とそうなってくれたので我々としても非常に嬉しいです。

INPEXに来る前から恩返しになることをしようなどと思っていたわけではなくて、このチームでやってきた経験の影響が大きいです。INPEXリーガルチームは、ビジネスでありながら損得勘定ではなく、「お互いこの人と一緒に仕事ができてよかったと思えたらいい」「チームメンバーであれば信頼していなきゃいけない」という価値観や信頼関係で繋がっています。だからこそ仕事がうまく進みますし、楽しいというのはもちろん、いい職業人生を叶えるためのチームだと思います。この発想は、TMIに戻ってからも後輩たちに伝えていきたいです。

INPEXでは、大型案件には2人の弁護士をアサインしていますが、日本法案件ということで雄介ひとりで担当してもらったことがありました。複雑な案件のため、体力的にも負担になっているだろうと感じたので、ある日、「力仕事も増えてきたし、もうひとりつけようか？少なくとも英語部分については、誰かに任せようか？」と打診したら、雄介がちょっと怒ったんです。 　どうして怒ったのか私には分かりませんでした。でも、それはひとりでできることを証明したい気持ちと、責任感、オーナーシップなんだろうなといまなら理解できます。どんな職業だろうが、何年目だろうが、プロフェッショナルとしてプライドは持つべきですし、尊重してあげたい。でも、私はジェネラルカウンセルとしてチームメンバーの健康管理も重要な責務のひとつです。他のメンバーもコロナ禍のリモートワークでさまざまなストレスを抱えながら頑張っていますし、「一人ひとりの身体的、精神的な健康も大事なんだよ」と雄介に伝えました。「そして、将来自分のチームを持ったときには、このようなバランス感覚を持つことも大事だよ」と話しました。とはいえ、ひとり加えようという提案に対して、「楽になってよかった」というリアクションではなく、怒ったことに雄介の意気込みを感じて、嬉しくもありました。

僕は出向している身として、期待を超えることが最低ラインだと思っていました。「ここで人を入れるということは、もしかすると自分の力が足りなかったのかな…」と話を聞いて思ったんです。でも、自分として何か困っているわけではないし、自分がハンドリングしてきたこの案件が半分になるのも嫌だなと思ったので、やれるし、やりたいと伝えました。ただ、いまのお話をしていただいたとき、「僕の力量や健康に不安があって、案件が無事クロージングするために必要であると思うなら入れてください」と冷静に伝えました。

私自身30代半ばの頃、頑張りすぎて出張中に倒れたこともあったので、単純に心配だったんです。「決して雄介の力不足という訳ではなく、これだけの案件をひとりでやっていたら精神的にも体力的にも大変だから」と、もっと丁寧に説明したら、きっと不安を与えることもなかっただろうなと感じています。

いまの話もそうですが、このチームの中で、明確に何かを言ってもらったからというのではなく、普段の会話から、自分が信頼されている実感が持てていることが、ヒロさんとINPEXリーガルの何より印象的なところです。誰しも自分の職業人生に影響を与えてくれる先輩が何人かいると思いますが、僕の場合、そのうちのひとりは間違いなくヒロさんです。例えばこれを教えてもらった、こういうことを言ってもらえて嬉しかったという、単純な話ではありません。お互いに信頼し合える関係があるからこそ、そう感じるようになったんだろうなと思います。

嬉しいですね。雄介とは出向が終わっても、ずっと関係を続けたい。TMIに戻ったとしても一生涯INPEXリーガルのチームメンバーです。

雄介が来てからちょうど1年が経ちましたが、TMIさんには無理を聞いてもらって、出向期間を3カ月間伸ばしてもらいました。ひとつには、進行中の案件を見届けてもらいたいし、最後まで任せてあげたいからです。もうひとつは、初めて会ったときに設定した目標に対して、「自分がどのように成長できたか、あるいは目標達成に至らなかったことは何か、なぜできなかったのか」の振り返りを一緒にやりたいからです。そして、残り3カ月、できるだけ多くの人たちとコミュニケーションを取って、TMIに戻ったあともINPEXとのいい関係を保ってもらいたいと思います。

はじめにヒロさんと立てた目標は3つでした。ひとつは、INPEXの主たる事業であるE&amp;Pの事業に関してプラクティスに精通すること。もうひとつは、インハウスでしかできない関わり方を追及していくこと。最後は、経験の少ない人や、これから入ってくるメンバーのためのマニュアルを残すことです。最後の目標はまさにいま、焦りながら取りかかっているところです。

インハウスでの関わり方についてはコロナ禍の中でもいい経験ができたと思いますし、少なくともINPEXリーガルの考え方、ビジョン、そして文化などについて理解してもらえたので上出来です。リモートではなく毎日みんなが出社していたら、まただいぶ違う雰囲気で、もっと気付きや学びもあったのかもしれません。いつかまた、どんな形でもいいから、TMIに戻った雄介と一緒に仕事ができればと願っています。

TMI入所6年目となる2020年から約1年間、INPEXへと出向した伯耆。INPEXのリーガルチームは、どんな期待をもって迎え、1年間でどんな評価をしたのか？そして、伯耆はTMIと異なる環境で何を感じ、何を学び、何を残したのか？

信頼と貢献の好循環をこのリーガルチームで


2013年にINPEXに中途入社。インハウスのリーガルチームの立ち上げを経験し、現在はジェネラルカウンセルとして、国境をまたぐINPEXリーガルチームを統括する。

2015年にTMIに入所。海事のファイナンス分野、LBOや宇宙法務を中心に経験したのち、5年目に留学を経験。帰国後から2021年にかけてINPEXに出向中。

「…で、向こうはどうだった？」　その晩、松尾は入所同期の弁護士数名と一緒に、都内の鰻屋のテーブルを囲んでいた。アメリカでの留学と研修を終え、約2年ぶりに事務所に戻ってきた松尾のために設けられた場である。　留学先のワシントンD.C.から研修先のニューヨークまでの約300マイルの道のりを、自家用車でトレーラーを牽引して家族と引っ越したこと。研修先の法律事務所では、趣味のゴルフや釣りをきっかけに、政財界の錚々たる顔ぶれが揃う社交の場を体験したことなど。松尾の土産話に耳を傾ける同期の中に、同じくファイナンスを専門分野とするある同期弁護士の姿もあった。　その同期はTMI入所後3年目に官公庁に出向し、6年目に留学、現在は所内外で不動産ファイナンス分野の専門家として高く評価されている。それに対して自分は、TMI入所後5年目に出向し、9年目に留学した。ひとつの専門分野を突き詰めて進んでいった同期と、専門分野を追いながらも幅広い分野での経験を求めた自分。TMIでは、その弁護士の志望に応じて多様なキャリアの築き方が可能であり、似た分野を専門とする同期の弁護士同士であっても、描くキャリアは大きく異なる。幅広い分野での経験を積めるというTMIのメリットを存分に享受しながらも、対照的な同期の存在があるだけに、留学に行く前の松尾は、頭のどこか片隅に小さなひっかかりを感じることがあった。　出向や留学の時機に対する自分の判断は、はたして正しかったのだろうか？弁護士として専門分野を極めるにあたり、遠回りをしてしまったのではないか？

「和廣が弁護士だったらなあ…」　まだ中学生だった息子にまでこぼしたほどだから、両親はよほど参っていたのだろう。佐賀県中央部ののんびりした生活に、弁護士は無縁だったということもある。他界した祖父が遺した農地を巡るトラブルに巻き込まれた両親が、毎日遅くまであちこち奔走し、疲れ果てた顔で帰ってくる姿をよく覚えている。この経験から、将来は弁護士として、農業を営む実家のような中小事業者の力になれる仕事がしたいと思うようになった。　大学に進学後は、環境や仲間にも恵まれ、司法試験の現役合格を目指してひたすら勉強に励んでいく。3年生のとき、ゼミ合宿での研究テーマが、松尾の将来を決める大きな転機となった。ファイナンス手法のひとつ、証券化である。会社自体の信用力ではなく、SPCと呼ばれるペーパーカンパニーが保有する資産の価値のみを裏付けとして資金を調達する。証券化の手法を用いれば、会社の信用力に左右されず、資産自体の信用力と投資家のリスク許容度に応じた柔軟な資金調達ができる。当時は企業法務も全く知らず、将来については一般的な弁護士像を漠然と考えていただけだったが、ファイナンスを専門とする弁護士になれば、個々の中小事業者に寄り添うような仕事だけでなく、広く業界全体に貢献することもできるかもしれないと思い始めた。　とはいえ当時、大学の身近な先輩たちの中にも、企業法務に就いている者は少なく、いまほどの情報もなかった。小学校の一学年が30人に満たないような田舎で育ち、司法試験までは本格的な受験勉強の経験もなかった自分にとって、企業法務は遠い世界のように感じてもいた。厳しい世界だから、自分の経歴や才能では通用しないのではないか。そんな不安に正面から答えてくれたのが、TMIだった。事務所訪問で会った弁護士の言葉をいまもよく憶えている。「企業法務の仕事に、特別な才能は必要ないんだ。弁護士にとって大切なのは、クライアントのニーズを把握して、法令や実務を調査して考えて、アドバイスをすることにつきる。それを地道に続けていけばいいんだよ」　遠い世界と思い込んでいたフィールドが、自分が続けてきた法律の勉強と地続きであることを実感できた。こうして一人ひとりと正面から向き合ってくれる事務所で挑戦してみたい。この人たちと一緒に仕事をして、弁護士としても人間としても成長していきたい。そう強く感じ、松尾はTMIへの入所を決意した。

松尾がTMIに入所したのは、2009年9月。4つの分野を3週間ずつ経験するローテーション期間（当時）を経たのち、希望していたファイナンスTMGの一員になる。最初は分からないことばかりだったが、一つ一つ時間をかけながら自分で理解できるように努めていった。年が明けると、状況は一変する。3月の期末に向け1年間で最大の繁忙期に入り、次々と案件の窓口を任されたのだ。TMIでは、若手弁護士の成長を促すために、パートナーが監督しつつ、あえて会議での発言や窓口対応などを任せられることも多い。クライアントからの電話対応は緊張の連続で、受け答えもままならない。「はい。直ちに確認いたしまして、折り返しご連絡いたします」　電話のたびに担当パートナーに報告して、対応を相談する。クライアントには、頼りなさげに映ったことだろう。それでも案件を2件、3件と進めていくうち、次第に問合せ内容への理解も進んでいく。自分の判断で即答して構わない話、自分でいったん回答した上で担当パートナーとも認識を共有すべき話、その場では回答せずに担当パートナーと検討すべき話…。これらを区別し、自信を持って対応できるようになり、1年目を終える頃には不動産ファイナンス案件はひとりでハンドリングできるようになった。　TMIでは専門分野の垣根を越えた案件も多い。若手を広く育てようというスタンスがあるため、他分野の案件であってもサポートを依頼する声がかかる。垣根を越えるのは仕事だけに限らない。会食やゴルフへの誘いにも、松尾は喜んで参加した。ある所内での飲み会で、先輩からこんなアドバイスを受けた。「自分はファイナンスしかやりませんとシャットアウトするのではなく、いろいろな分野を経験したほうが弁護士としての成長に繫がると思うよ。というか、ファイナンスと全く関係ないけど、ちょうどM&amp;A案件があるから一緒にやってみないか？」　この案件では環境分野のデューディリジェンスを担当したが、法律のみならず自治体の条例まで印刷して読み込んで、出張に臨んだ。これを機に松尾は、より幅広い案件を取り扱える弁護士になろうと、ファイナンス案件の他にもM&amp;Aやコーポレートが絡む案件にも多く関与することになる。　こうして経験する分野が広がる中で、思わぬ案件とも出会った。官民一体となった農業振興のためのプロジェクトにおいて、ファイナンスの知見が必要とされる箇所を担ったのだ。関わったのは、ほんの一端に過ぎないかもしれない。それでも、「企業法務に携わればこのようなスケールで日本の農業界に貢献できるのか」と胸が熱くなり、自分の原点にあらためて思いを馳せることができた。そう頻繁にあることではないが、「自分の人生はこの仕事をするためにあった」と思えるような案件に出会うことがある。　TMIには専門分野の垣根を越えてこのような案件に携われるチャンスが多いと松尾は感じている。自分だけでは見えてこない道へと、事務所や先輩たちが自然に導いてくれるものなのかもしれない。後輩弁護士を指導することも多い立場になったいま、自分がしてもらったように後輩たちの考えを積極的に汲み取る姿勢も大切にしていきたいと意識するようになった。

迎えた入所3年目、ある官公庁への出向の話が入る。松尾はじっくりと考えてみた。出向先での2年間と、このままTMIで過ごす2年間、どちらが自分にとって成長できる可能性が大きいのだろう。不動産ファイナンスの専門性だけを考えれば前者に間違いない。しかし、当時はM&amp;Aのみならず支配権争いや訴訟案件も担当しており、まだまだ事務所内で経験すべきことが多いと感じていた。先輩たちの力添えもある中でつくられてきたここまでの流れにもう少し乗る形で、さらに幅広い案件に関わるほうが成長できるのではないか。松尾は辞退を決め、同じファイナンス分野を専門としている同期の弁護士が出向することになった。　2年後、別の出向の話が再び入ってきた。この頃の松尾には、TMIの中で若手弁護士として携わりたかった分野に一通り関与できたという実感があった。日本取引所自主規制法人という出向先は、ファイナンスだけを専門としていたら分野違いとも言えるが、対応できるだけのコーポレート分野の経験も積んできた自信はある。それだけに自分の幅がさらに広がり、成長につながるに違いないと思った。　出向を快諾した松尾が配属されたのは、上場管理部だった。資本市場の公正性を担保するために、上場会社による取引所規則の遵守状況を審査する部署だ。遵守状況の審査に加えて、取引所規則への違反が認められた上場会社に対する措置を検討することも重要な業務となる。　一般株主の保護、資本市場の公正性、上場会社自身の再発防止への取組みなど、さまざまな考慮要素や利害関係の調整が求められ、ときには東証内部でも激しく意見が対立することもあった。上場会社に対して厳しい姿勢で臨まなければならないことも多く、痺れるような場面も少なくない。その都度、弁護士として培ってきた交渉や利害調整の経験を踏まえて、部署の内外のさまざまな関係者と協力しながら、案件を纏めるように尽力した。　上場会社に対する上場廃止の判断に弁護士として関与することもあった。事業者の役に立ちたいと思っていた学生時代の自分に立ち返ると、相反する仕事に見えるかもしれないが、資本市場全体の健全性を保つのは、ひいては広く業界全体に貢献することにつながる。弁護士として依頼者の利益を守るという視点は欠かせないが、一方で、資本市場などのマクロな観点から案件を俯瞰することの大切さを肌感覚で実感できたのは、松尾にとって貴重な経験となった。　既上場会社の審査のみならず、新規上場会社の上場審査の中でも大きな案件の担当となる機会も得た。上場管理と上場審査では審査内容も異なってくるが、一担当者として簿記や財務分析も勉強し直し、法務面のみならずビジネスモデルや業績見通しを突き詰めて検証する仕事に、これまでにない面白さを知った。こうして松尾は、さまざまな学びに富んだ2年の任期を終えて、TMIへ帰ってきた。

出向からの復帰後は、取引所での経験を生かし、主に上場会社に関する案件を中心に取り組んだ。一緒に働く仲間は以前より増え、毎年30名以上のパートナー弁護士と仕事をするようになった。担当する案件も、不動産ファイナンスやM&amp;Aファイナンス、証券発行から、新規上場、コーポレートガバナンス、公開買付け、支配権争い、不祥事対応など多岐にわたる。一緒に働くパートナー弁護士の多さと担当案件の幅広さは、TMI内でも有数であると自負している。　上場会社に関連する仕事に向き合っていくうちに、米国証券法を専門的に学びたいと思い、入所9年目となる2017年、ジョージタウン大学に留学した。留学先では、JD生向けのAdvanced Seminarなど難易度が高いとされる講座を進んで受けた。また、エクスターンシップの一般公募に応募して米国金融業規制機構（Financial Industry Regulatory Authority：FINRA）での研修機会も得た。FINRAとは、全米証券業協会とニューヨーク証券取引所の自主規制部門の統合によって2007年に設立された米国最大の証券自主規制機関である。弁護士として日米の証券規制機関で働いたのは、自分だけかもしれない、という事実は新たな自信を芽生えさせる。留学先の卒業後にはニューヨークの法律事務所に身を置いた。佐賀の小さな法律事務所で働いていたかも知れないと思うと、「ずいぶんと遠くまで来たな」と感じられてならない。　アメリカ滞在中、松尾の頭に、ひとつの言葉が浮かんできた。「Be bold＝大胆であれ」である。　さまざまな人種の集まるアメリカでは、自らの意思と責任で主体的に行動することが求められる。もともと自己主張が強い性格ではないと思っているが、留学の機会を生かすために遠慮せずに大胆に挑戦を続けた。周りをうかがいながら自分の水準を決めるのではなく、自分を信じてとりあえずやってみるという、アメリカ人のスピリットに感化されたのかもしれない。留学先での難講座の受講も、エクスターンシップへの参加も、トレーラー牽引による約300マイルの自力での引越しも、ごく当たり前のようにやっている自分がいた。　幅広い案件を経験しようとすればするだけ、特定の分野の専門家となる時期は遅れるし、難しい案件対応を続けなければならないことになる。自分で選んだ道とはいえ、限界に近い量の仕事が重なって「やることを絞っていればこんなにしんどくないのかなぁ」と思ったこともなくはない。特に、早くから不動産ファイナンスの分野で専門性を極めて頭角を現した同期弁護士と比べると、遠回りしている感も否めない。　しかし、米国留学を経たいま、決して楽ではない日々であったが、自分にとっての挑戦を続けてきたからこそ、想像すらできなかったような大きな成長の機会を得ることができたと確信している。これまでの経験はどれひとつとっても、けっして回り道ではなかった。現在は、ファイナンス、M&amp;A・コーポレート等の幅広い専門性を生かしてクライアントの役に立てる弁護士を目指し、さらなる研鑽を続けている。同期弁護士から常に良い刺激を受け、リスペクトし続けていられるのも、自分のそうした挑戦と努力に対する納得感と自信があるからこそだろう。　それと同時に、弁護士一人ひとりに合ったキャリアの築き方を許容するTMIの懐の深さを感じている。特定の分野に縛られない働き方も、所属分野とは異なる出向先への出向も、ずいぶんと遅い時期での留学も、常に自身の選択を尊重し応援してくれていたTMIには深く感謝している。　久しぶりに集まった同期たちから、いろいろな近況が飛び交う。アメリカで感じたのと同じように、なんて多様性が許される事務所なのだろうと、あらためて思う。自分とは対照的な歩み方をしてきた同期をはじめ、誰もが自分らしさを曲げずに、ここに集まっている。

それまで積んできたキャリアとは異なる挑戦を求めて、証券取引所への出向を決めた松尾。結果的に貴重な経験となり、アメリカ留学におけるテーマにも繫がっていった。だが、そうした道を一つ一つ選んでいく過程では、迷いや葛藤があったのも事実である。松尾はそれぞれの局面で、何を考え、どんな判断を下したのか？そしていま、どこへ向かおうとしているのか？