TMIにおける東京以外の国内拠点は、開設順に、名古屋（2012年）・神戸（2014年）・大阪（2018年）・京都（2019年）・福岡（2020年）の5つとなりますが、開設したきっかけはそれぞれ異なっています。例えば、東京以外の地に本拠を持つクライアントのお膝元においてより近い距離感でより緊密なサービスへのニーズに応えるため。あるいは、ヘルスケア・知財・海外法務などTMIのリソースをフルに活用できる環境がその地域にあったため。あるいは、TMIの弁護士・弁理士が築いてきた人間的なつながりを活かして拠点開設に至ったものも。　このように、各拠点がそれぞれ成り立ちのストーリーを持って存在しているわけですが、やはりそこには共通するものがあります。それは「TMIらしさ」あるいは「TMIのDNA」と言えるべきものだと思います。つまり、すべてのクライアントに、常に最高のリーガルサービスを提供していきたい。さまざまな人とのご縁、つながりという財産を大切にしていきたい。現状で満足するのではなく、専門性を磨き続けると共に、新たなマーケットを切り拓いていきたい——。TMIらしさは、東京オフィス以外の拠点でも同じように志向され、すべてのオフィスにしっかり根付いているのです。　「地方の拠点だから規模の小さい案件しかないのでは？」と聞かれることもありますが、そんなことはありません。例えば、京都オフィスでは、中小規模の企業からの日常的な法律相談や細かな紛争案件も多いですが、その一方で、京都を基盤にグローバルに事業展開している企業の大規模国際案件もあれば、国内外で多額の資金調達を模索する京都発スタートアップの案件もあります。　京都オフィスのメンバーは私も含めて数名ですから、このメンバーだけですべての案件に対応しきることはできません。それでも、東京オフィスを含め他の拠点とは「オールTMI」として常に綿密に連携していますので、どんな規模・どんな種類の案件にも対応できます。例えば、京都のお客様の案件で、十数人のチーム体制が必要となる案件であっても、即座にチームアップし、京都オフィスのメンバーがチームを牽引する形で対応することが可能なのです。　「オールTMI」の協力体制は、案件の規模感だけで発揮されるわけではありません。世界各国での個人データの取扱い、サイバーセキュリティや不動産テックなど、最先端で専門性の高い案件では、TMIの各拠点に散らばるその分野の第一人者と連携して、スムーズな対応ができます。クライアントにとって、身近な場所に、常に最新の最高レベルのリーガルサービスを受けられる場所がある。そんな存在を目指しているのです。　もちろん、他の拠点のリソースに頼ってばかりでもいけません。地元のクライアントと向き合い、クライアントのお話にしっかりと耳を傾け、抱えられている問題・課題を整理し、最適かつ満足いただけるサービスを提供する。これは弁護士の仕事の基本だと思いますが、特にクライアントとの距離が近いため、この基本をより一層心がけています。そのためには、京都オフィスのメンバー一人ひとりが、豊富な経験と柔軟性を備え、十分な実力を付けていなければなりません。必要な研鑽ができる環境を充実させ、成長のきっかけとなる案件を潤沢にアサインする。その上で、必要であれば、他の拠点のメンバーと連携する機会や、東京オフィスや海外オフィスでの研修の機会を用意する。それが、我々各拠点の先輩弁護士に求められている使命だと思っています。

せっかく東京以外の場所に５つも拠点があるのだから、そこで研修の機会を提供し、ぞれぞれの地域で仕事をする意義ややりがいを肌で実感してもらいたい。それによって、弁護士・弁理士としての視野や経験の幅を拡げ、より幅広い人間関係を構築してほしい。そんな思いから生まれたのが「国内地方オフィス短期研修制度」です。弁護士・弁理士のアソシエイト全員を対象に、短期間東京を離れて東京以外のオフィスで執務し、地元のクライアントと向き合い、地方オフィスの案件に関与しつつ研修ができる制度です。　「地元に帰って仕事してみたい」「憧れの街で働いてみたい」「場所を変えて気分を変えたい」など、どんな理由でも構いません。受入れる拠点側のキャパシティがあれば、希望するオフィスで研修することができます。住居費用は事務所負担です。休日には地元の観光やグルメを楽しんだり旧友と親交を深めたりもできます。　地元の案件に関わりながら、その土地に暮らしてその土地ならではの文化や風土に触れたり、その地方の出身の方ならば東京で培った知見・経験を活かして地元の社会・経済あるいはお世話になった方々への恩返しをしたいという人もいると思います。せっかくですから、単に研修するだけでなく、弁護士として、社会人として、人間として、さまざまなことを経験して視野を拡げる機会にしてもらいたいのです。　研修ですので、短期研修後にそのオフィスに勤務することは義務付けられていません。必ず元のオフィスに戻ることが約束されています。もちろん、もし短期研修中にその土地を好きになったら、また希望して戻ってくるチャンスはあります。　京都オフィスは開設から約2年以上経ちますが、その間、４人の若手弁護士の短期研修を受け入れてきました。東京で培った実力を思う存分に発揮してもらいたい一方で、せっかく来てもらったのだから、東京オフィスでは体験してこなかったことを経験してもらうようにも心がけています。例えば、若い先生たちには、単に仕事をアサインするだけではなく、「弁護士の仕事の全体像」をできるだけ見てもらうようにしています。我々がお役に立てそうなクライアントをどうやって見つけ、どうやってアプローチするのか。クライアントが求めるサービスをどうやって探し当てるか。クライアントのお話の中から問題解決のために必要な情報をどうやって引き出すか。そのために冗談も交えた雑談もしかり。そして、打合せ後のフォローから、クライアントへの請求に関するやり取りまで。　そうした体験ができるのは、クライアントとの距離感がとても近い、メンバー同士の関係も深い、地方オフィスならではのことだと思っています。　「東京ではできない経験ができました」「仕事以外も含めてとても勉強になりました」　別れ際に残してくれる言葉に、彼ら彼女らの大きな成長を感じて、心から嬉しくなります。これからも、クライアントにとっても、TMIの若手メンバーにとっても意義のある存在として、地方オフィスを発展させていきたいと考えています。

弁護士数百人規模の組織になったいま、アソシエイトが自らの判断で、クライアントとの打合せを自分で仕切ったり、クライアントからいきなり直接相談を受けたりという機会は、かつてに比べるとだいぶ減ったように思います。逆に、クライアントとの距離が近く所帯も小さい地方オフィスでは、こういう機会は少なくありません。こうして養われる「自分が真ん中に立つ力」は、今後より大きなプロジェクトを動かす際にもそのまま活きてくるはずです。クライアントから突然いただく相談は、必ずしも自分が得意としていない、あるいはそれまで培ってきた専門分野ではない相談かもしれません。それでもクライアントは自分を頼って相談してきてくれているのです。その信頼に対し、責任をもって、自分ができる最大限の力をもって応える。自分では賄いきれない部分は「オールTMI」のリソースをフル活用し、常にクライアントにとって最適な、最高レベルのサービスを提供する。こうした経験から、「目の前で困っている人を全力で助ける」「依頼者の信頼になんとしても応える」という、弁護士の仕事の醍醐味をたくさん感じてほしいのです。　若い先生方は、「自分がうまく対応できるのだろうか？」という不安もあるかもしれません。確かに、最初は戸惑ってしまうようなことにも直面するでしょう。しかし、先輩弁護士との距離感も近いというのが、地方オフィスならではの良さです。何か困ったことがあれば、メールや電話ではなく、すぐ横にいる先輩をつかまえて、直に相談することができます。日頃、クライアントと電話している先輩の会話も自然と耳に入ってきます。先輩弁護士と一緒にクライアント先に行く機会も少なくありません。そうした毎日を重ねることでチームとしての一体感が自然と生まれ、弁護士としての振る舞いも学びとれるのです。　その地域が好きになって要領を得たアソシエイトは、ただ先輩についてまわるだけではなく、頼もしく、自分の足で動きまわるようになります。「昔の友達と会って相談を受けてきた」「好きなお店に通ったら法律相談を頼まれた」という人もいました。それが正式な案件受任につながるかどうかは重要ではありません。弁護士として、周囲から信頼され、必要とされ、少しでも役に立っているという実感を得ることが弁護士の成長の糧であり、周囲からの信頼に一つ一つしっかりと応えていくことで弁護士として、社会人として、地域に貢献や恩返しできているわけですから。　そして、さらに大事なのは、単にイチ弁護士として地元の役に立つだけでなく、TMIの弁護士としてその地域で新しい価値を創り出すこと。TMIの弁護士である以上、TMIのチャレンジ精神——現状で満足するのではなく、さらに新たなマーケットを切り拓いていく——をどう実現していくかを考えることが大事なのです。ときには自分で歩き回って見聞きし、ときにはじっくり腰を据えて目を凝らして考えてみると、いろいろなアイデアが湧いて出てきます。それを新しい法務ニーズとして開拓していくのは簡単なことではありませんが、地方オフィスにきたら、そういう取組みもどんどんやってほしいと思っています。

TMIという組織に所属はしていますが、基本的にはそれぞれの弁護士はアソシエイトであってもひとりの弁護士です。案件ごとにどんなチームを組むかどうかも、海外留学するかどうかも、パートナーに昇進して事務所経営に関わるかどうかも、本人の自主性が尊重されます。ここが、人事異動や転勤の辞令に対して受動的な一般企業とは異なる点です。実際、各オフィスの立ち上げも、希望する弁護士がいたからこそ実現した話で、もし誰も手を挙げていなければ、開設には至らなかったはずです。また、地方に複数の拠点があるということは、結婚や家族の転勤あるいは親御さんの介護といった事情・ライフイベントに合わせて、場所を変えてそのままTMIの一員として働けるチャンスがあるということです。　かくいう私は、もともと京都に地縁があったわけではありません。長く関わってきたスポーツ関係の仕事が一段落し、「さて、これから自分のなすべきことは何だろう？」と考えていた時期に、京都オフィス開設の計画が持ち上がりました。地縁もない京都で自分に何ができるのか、不安な思いもありましたが、TMIの拠点を新しくつくるというチャレンジ性に惹かれたことや、将来的に京都勤務を希望する後輩たちのために地盤づくりをしたいという思いが湧いてきました。地縁があって地元に恩返ししたいという気持ちがある方に任せた方が良いのでは、とも悩みましたが、いまでは、その土地のことは何も知らない、縁も所縁もないからこそ、自分の得意や個性をフル活用して、クライアントそれぞれに適した、きめ細やかなサービスを心掛けられる——今は「これでもよかったんだ」と思っています。そして何より、「オールTMI」の全面的なサポートを得て、この役をやらせていただけている、いままでにない幅広い経験をさせていただけていることに、心から感謝しています。　古都というイメージが強い街ですが、実際に活動を始めてみると、新たな発見もありました。多くのグローバル企業を輩出しているだけあって、ベンチャースピリットに溢れる経済都市という顔も持っているのです。一方で、世界的な歴史都市、宗教都市、学術都市ですので、寺社仏閣、学校、伝統的な産業が数多くあり、東京では経験したことのないような法務ニーズに触れることも少なくありません。その土地ならではの特異性に触れられるのも地方オフィスの面白さであり、それを私は当初の想像以上に楽しんでいます。　今後は、例えば、北陸や四国出身の弁護士が地元に恩返しすべく、故郷に新たにオフィスを立ち上げるというケースも十分想定されると思います。もっと言えば、チャレンジしたいことが見つかれば、国境さえ関係ないと思います。経験を積んで英語力を磨いた上で、映画が大好きという人なら、ハリウッドに、ミュージカルが好きな人なら、ニューヨークオフィスを、それぞれ作って活躍してみたい、というアイデアも出てきそうです。TMIなら、十分にあり得る話です。　TMIにはいくつもの道が広がっていますし、これからもっと開拓されていくはずです。ぜひ、あなたらしい、あなたにしか歩めない道を見つけてほしいと思います。

名古屋・大阪・神戸に続き、2019年12月に開設した京都オフィス。その立ち上げから関与している渡辺伸行弁護士が、地方拠点の現場について語る。クライアントにとって、TMIの弁護士・弁理士にとって、地方オフィスの存在はどんな意味を持つのか？

地方ならではの関係の近さと濃密さが、弁護士としての成長につながっていく

1999年にTMIに入所したのち、米国・英国での留学・研修を経て、2007年にパートナー就任。M&A・事業再編、コーポレート・ガバナンス、スタートアップ/ソーシャルベンチャー支援、株主総会対応などを担当するほか、2019年に開催されたラグビーワールドカップ日本大会では、大会の招致から開催期間中の運営までを法務面から全面的にサポートした。2019年末からは京都オフィスに赴任し、クライアントサービスとマーケットの開拓のほか、後進の育成に励んでいる。

私はHRや労務委員会という組織のメンバーとして、自分の専門分野である労働法の知識を活かしながら、弁護士やスタッフの産休・育休制度の設計・運用に関与しています。これらの制度を構築する上で重要なのは、みんなにとってフェアで、ハッピーな仕組みであること。それは、産休・育休制度を利用する人が心地よく使える制度にするだけでなく、周りでサポートをする所員にとっても、制度が公平だと感じるものになっている必要があるということです。これは言葉にすると簡単ですが、実際にやってみると非常に難しいことで…。いろいろな観点から何度も議論を重ねて、一番良いと思える制度を作ったとしても、実際に運用することで初めて見えてくる不具合や改善点が必ずあります。だから、常に、皆さんのフィードバックに耳を傾けながら改善していくことを心がけています。 　それでははじめに、どんな制度があるのかという点を中心にご紹介していきたいと思います。 産休・育休制度は、妊娠・出産・育児のために休暇を取得できる制度です。産休や育休は、ご本人の体調や保育園に入るタイミングなど、個人ごとにさまざまな事情がありますので、制度設計においては、できるだけ自由度を高め、利用者が利用しやすい制度になるようにしています。 時短勤務制度は、育児などの理由により、フルタイムで働けない弁護士・弁理士が、事務所で勤務する時間を短縮する制度です。勤務時間は個々の事情に応じて自分で決めてもらい、報酬については同期との公平性を考えながら設定する仕組みになっています。 フレックス制度は、産休・育休から復帰した直後にどの程度働けるかわからないという場合や、病気の治療で働く時間を十分に確保できないような場合などに、弁護士・弁理士が、事務所で勤務することなく、また勤務時間にとらわれず、フレキシブルに勤務できる制度です。 スタッフの方々に関しては、育児介護休業法が詳細な規制を定めていますので、この法律にしたがって制度を設けていますが、時短勤務については、小学校入学まで取得できるようにするなど、スタッフのニーズに合わせて制度を拡充しています。 また、コロナ禍において、リモートワークや時差通勤制度も生まれました。特に、妊娠中の方や介護の負担の重いスタッフを中心に、一週間のうち何日かはリモートワーク制度を利用しているほか、一日のうち一部の時間帯だけをリモートワークで勤務したり、混雑ピークを避けた時間帯に出勤時間や退勤時間をずらすことができるようにしています。 　当然のことながら、人によって仕事や生活に対する価値観は異なりますし、家庭の状況や要望も異なります。そのような中で、TMIが事務所としてばらばらになることなく、所員一人ひとりの希望になるべく応えられるような制度設計を目指しています。

私は現在9歳と6歳になる二児の母ですが、産休・育休を初めて取得した10年前は、ちょうどTMIで女性弁護士が増えてきた頃でした。産休に入るタイミングも復帰するタイミングも、基本的には判断を任されており、自分がベストと考える時期で調整しましたが、周りからの理解とサポートも非常に厚かったです。復帰後は、保育園の送迎などがあったため時短勤務をさせていただきました。時短勤務といっても、クライアントからの要請があれば帰宅後、子どもが寝ている時間に仕事をする必要はありますが、それでも一旦は仕事を中断し、子どもとの時間を持てるということは非常にありがたかったです。仕事の内容としては、あまり大規模でチームメンバーが複数いるような案件ではなく、自分ひとりまたは数名で完結できるような案件の方が、クライアントに対する納期を管理しやすかったため、自然とそのような仕事を多く扱うようになりました。制度を活用しながら自分のその時々の状況にフィットした働き方をすることができたと思います。

私も同じく、二児の母です。入所したのが2014年で、2016年と2019年に、1年ずつ産休・育休を取得しました。第一子の産休・育休からの復帰後しばらくは時短勤務を続けていたのですが、第二子が1歳を過ぎた頃に子どもの体力も少しずつついてきたと感じ、区立保育園の延長保育を利用して、時短勤務からフルタイム勤務に戻しました。自分のキャリアや子どもの状況など人生のステージに応じて働き方を選択できることが、TMIで働く大きなメリットだと感じました。

私はおそらく、弁護士秘書として産休・育休制度を活かして復帰した初期のメンバーだと思います。実は、私よりも先輩の世代では、子どもが生まれるタイミングで離職する方や産休・育休後に復帰することなく、そのまま離職される方が多く、せっかくスキルや経験を積んできたのに、非常にもったいないと感じていました。 　私は2010年に育休から戻り、時短勤務で復帰することができたのですが、夫の仕事の関係で海外赴任のため、一度離職したこともあります。復職した際には二人目も生まれていて、再び時短で働き始めることができました。その際に、離職する以前よりも制度が形になり、利用する秘書が増えて進化していることを実感できたのは嬉しかったです。産休・育休前は、いつどのような要望をいただくか分からない多忙なパートナーやアソシエイトの先生を複数担当していましたが、時短で復帰した直後は業務量が安定している顧問の先生方を担当させていただいたり、パートナー1名の担当にしていただいたりと、突発的な仕事があまり起きないように配慮してくださり大変ありがたく思いました。

まさに、制度活用のパイオニアだったのですね。私は2020年、コロナ禍に出産しました。特許・商標スタッフなのですが、周りに子どもがいる弁理士やスタッフもいて、妊娠が分かってからは、いつ体調の変化があっても休めるようにと気遣ってくださり、早くから案件の引継ぎを始めることができました。復帰のタイミングについても「2021年の6月●日から働き始めたいです」と自分の希望を伝えたところ、調整が入るのかと思ったらそのまま受け入れてくださり、「え？いいの？」とびっくりした覚えがあります（笑）。 　また、復帰後は時短勤務であることから、「どうやって案件を振ると負担にならないかな？」と聞いてくださり、子どもの体調不良などで急なお休みが発生してもあまり影響がない業務から始められるように調整していただき、非常にありがたかったです。その後は、コロナ禍ということもあり、リモートワークを取り入れながら、徐々に業務を戻していきましたが、とにかく「こんなに自由なんだ」ということに驚きました。きっと、この10年間でだいぶ進化したのでしょうね。

そうだと思います。スタッフが一人、二人と出産して仕事に元気に戻ってきている姿を見ると、本当に進化したと実感が沸きますね。

私自身は、TMIの弁護士・弁理士も、スタッフも、本当に優秀な方が多いと感じていて、このような方々が、仕事と子育ての両立ができないという理由で退職してしまうのは、本人にとってはもちろん、事務所や一緒に働く仲間にとっても大きなマイナスだと思います。時間はかかりましたが、少しずつ制度を確立していったことに伴って、所内の産休・育休や、女性の働き方への理解や関心もだいぶ高まったと感じています。

まさに、先生方が産休・育休取得者の意見を聞きながら制度を磨き続けてくださっているからだと思いますが、今のTMIは「辞める、辞めない」の決断ではなく、「どの制度を活かそう？」「どうやったら自分にとってベストな働き方を実現できるだろう？」と選択肢を模索できるようになっているように思いますね。

スタッフも同じく、必ずしも「子どもを産んだから辞めます」という流れではなくなってきていて、実際に私の先輩方は皆さん復帰されていますし、チームの中でもお互いに理解と想像力を発揮しながら支え合って働いています。それが、事務所としてあるべき姿だと私は考えています。

もちろん、全員の理解レベルが同じかといったらそうではないかもしれませんが、少しずつでも理解や共感が広まることで、私たち女性がライフイベントを理由に望んだキャリアを歩めないということがなくなってきていると実感しています。産休・育休から復帰して、ワークライフバランスを理由に続けられなくなる人がいなくなるくらいまで、頑張りたいですね。

繰り返しになりますが、この10年でTMIの「働き方」の多様性の進化を感じていますし、さらにTMIが前進し続けていくことにも期待しています。もちろん、制度を活用してきた私たちとしては周りでサポートしてくださる方々に感謝しながら、さらに良い形を目指せればと思っています。

改善の余地という意味では、子どものいる所員がもっと働きやすくなるためにできることはまだまだあると思います。「リモートワーク」をもっと柔軟に活用できたり、時短をより長く続けられたりするなど。家庭での出来事にも柔軟に対応しながら仕事を続けられる、そんな理想系にさらに近づいていければいいと思います。

世の中の価値観も変わってきている中で、「弁護士の働き方」についてもより良い方向へと変化させていく良いタイミングなのかもしれませんね。

女性だけではなく、高齢化社会における介護の問題や、コロナもありますので、柔軟な働き方を求める人は今後きっと増えていくのではないでしょうか。そんな中、これまでのTMIを形成してきた仕事のやり方や文化を守りながらも、これからは誰もが活用できる選択肢を少しずつ増やしていくことができると良いと感じています。

まさに皆さんがおっしゃる通りで、時代も変わってきています。「世の中の流れだから」という外部要因に動かされるのではなく、TMIとしてあるべき姿に向かって取り組むことが重要であり、常に改善すべきことがあるはずだ、と自覚して、引き続き試行錯誤していけたらと思います。

TMIで働く多くの女性は、産休・育休を取得した後も充実した仕事生活を送りながら子育てにも全力で向き合っている。それを実現する制度はどのようなもので、実際に制度を利用している所員の声とは。制度設計に関与したパートナー藤井基弁護士と、産休・育休を経験したカウンセル弁護士、アソシエイト弁護士、弁護士秘書、特許・商標スタッフの5名が語り合います。

フェアでハッピーな制度を目指して。所員の声をもとに日々進化


1997年にTMIに入所し、南カリフォルニア大学ロースクールへの留学とロンドンのシモンズ・アンド・シモンズ法律事務所での勤務を経て、2005年にパートナー就任。労働法の知識を活かしながら女性を支える制度設計にも関与。

一般企業での勤務、米国公認会計士資格取得を経て、2009年にTMIに入所。2011年と2014年に産休・育休を取得した、二児の母。2021年1月にカウンセルに就任。

2014年にTMIに入所。専門領域は知的財産権。二児の母であり、2016年と2019年にそれぞれ1年ずつ産休・育休を取得し、現在は業務と子育てに励む。

2003年にTMIに入所し、弁護士秘書として勤務。2009年に第一子が生まれた後、夫と共に海外へ赴任するためにTMIを離職。第二子の出産後に帰国・TMIへ復帰し、弁護士秘書として時短で勤務する。

2008年にTMIに入所し、特許・商標事務として弁理士と共にプロジェクトを進行している。コロナ禍の2020年から産休・育休を取得し、2021年の6月に復帰した一児の母。

私は「HR弁護士」という、アソシエイト弁護士の人事に関する制度を構築・運営する組織に所属していますが、数年前、アソシエイト弁護士の業務量を適正にコントロールすることに大きな課題を感じていました。 　前提として、TMIではクライアントやプロジェクトごとにベストなアウトプットを目指すために、「オールTMI」でフォーメーションを組むことを大切にしています。専門領域別のTask Management Group（以下TMG）やプラクティスグループの垣根を越えて、プロフェッショナル同士が自由に、臨機応変にチームを作って仕事をすることができる環境なのです。これは、パートナーがアソシエイトに案件をアサインする場面でも変わりません。このチームアップの仕方は、TMIの強みです。 　しかし一方で、明確な課題も見え始めていました。どの案件を誰にアサインするか。誰にどれだけの数の案件をアサインするか。そしてアサインされた弁護士は、どれくらいのボリュームを受けるべきか。誰と仕事をするかはパートナーとアソシエイト各個人の選択に任されているので、事務所全体の弁護士数が増えるにつれ、各人のキャパシティを認識し、コントロールすることがとても難しくなっていたのです。「できる」「頼みやすい」と評判の弁護士たちに業務量が偏ってしまい、その人たちはオーバーワークで疲弊していく。他方で、実力がありながらも自己PRがうまくなくて十分に仕事が集まってこない人たちもいる。仕事をしすぎている人も、もっと仕事をしたい人も、事務所全体でもう少し業務量をフラットにしたい。みんなで支え合って、より良く仕事をしたい。そんな想いがありました。

今回お話しするワークロード管理システムは、実は私たちがアソシエイトだった時代に発案したものです。事務所には「カイゼン・プロジェクト」という、所内の課題を見つけて解決するための仕組みを提案する制度があり、その一貫として業務量管理の課題を取り上げました。当時、私自身も非常に忙しくて、入所した頃に比べると、仕事へのモチベーションが低下しているのを感じていました。その結果、業務のパフォーマンスにも悪影響が出始めていた気がします。当時ほど、仕事を「しんどい」と思ったことはありませんでした。もともと弁護士という仕事やTMIという事務所に憧れて入所したのに、結果として仕事や事務所を嫌いになってしまうことがあるとしたら、本当にもったいないことですよね。 　弁護士の仕事、特に企業法務の仕事は、業務の性質上、必然的にハードワークになると思います。そのこと自体は否定できません。そんな中、自分が「楽しめる」範囲を超えた業務量を担ってしまうと、とても辛くなってしまいます。目の前の仕事のクオリティが落ちてしまうのはもちろんのこと、長期的なキャリアプランにも大きな影響が出てしまいます。他方で、自分が同期や同年代の弁護士と比較して時間を持て余したり、暇だと感じる時間があったりすると、それはそれで、弁護士本人にとって精神的ストレスになりますし、事務所全体にとっても好ましいことではありません。弁護士として価値を発揮し、成長し続けるために、適正な業務量を保つことは欠かせないと思うのです。そう気づいた時に「カイゼン・プロジェクト」のチームを組んで、既存の業務量管理の仕組みをより良くしたいと考えました。

私もワークロード管理の「カイゼン・プロジェクト」に初期から携わりましたが、そもそもアソシエイトとしてこのような事務所運営の根幹に関わる仕組みを作れたことは、今でもびっくりしています。 　私も当時、谷口先生と同じ課題を感じていました。弁護士業とは、チャレンジできる面白い仕事である一方で、ストレスを溜め込みやすい仕事でもあります。クライアントのニーズや先輩弁護士の要求に応えたいという責任感が強いほど、いつの間にかどんどん仕事を引き受けてしまう。そして気づかないうちに自分にとっての限界値を超えて、疲れが蓄積してしまう。特に若手の頃は優秀な人ほど「この案件もやってみたい！」「もう少しいける！」と限界を超えるところまで引き受けてしまう傾向が見られます。弁護士として、プロフェッショナルとして、「もう無理です」「できません」なんて言いたくないですよね。自分からは言い出しにくいところが難しいのです。でも、誰しも人間です。限界はどこかにあるので、そこを超えないように、そして超えそうになったときはすぐに回復できるように、より個人の事情に合わせた業務量の管理、ひいては体調管理の仕組みが必要だと確信していました。

TMIではもともと、以下「1. パートナー会議・HR弁護士での全体モニタリング」という方法でアソシエイトのワークロード管理をしていましたが、自分の経験上、業務量のキャパシティというのは人それぞれ違うので、勤務時間という客観的な数字をモニタリングするだけでは、初期段階の不調を拾うことは難しいと考えていました。そのため、若手弁護士自身に主観的な繁忙度を確認したり、周りの弁護士からも情報を収集し、それらを全体において共有したりする必要があると考えました。事務所全体で各弁護士の業務量にしっかりと目を向けるために、以下「2. 週間業務状況見通し登録」や「3. HRホットライン制度」という仕組みを、カイゼン・プロジェクトやHR弁護士のメンバーたちと考え、構築しました。

アソシエイト弁護士の働き方や業務量については、各TMGのパートナー弁護士が集まる毎月の会議やHR弁護士の毎週の定例会にて定期的に確認しています。TMIではアソシエイトに限らず、すべての弁護士が「タイムシート」と呼ばれる稼働時間管理システムで稼働時間をタイムリーに登録していますので、ある弁護士が今月または今週何時間くらい働いたか、という数字はデータで確認することができます。その稼働時間を横断的にチェックすることで、一緒に案件を進めているパートナー弁護士が調整し合って当該アソシエイト弁護士の業務量を抑制したり、周りの弁護士が対象者に気を遣ったりと、対応する方法を皆で考えることができます。逆に、十分な量の仕事がアサインされていないアソシエイトがいる場合には、積極的に当該アソシエイトに案件のアサインがなされるようにパートナー弁護士間で情報共有し、事務所全体での業務量平準化に努めています。

1. パートナー会議・HR弁護士での全体モニタリング

事務所に所属する全アソシエイト弁護士の繁忙度を「見える化」する、オンライン上の一覧表です。毎週月曜日の正午までに、アソシエイト自身がアサインされている案件の状況などを踏まえて、これから始まる1週間の業務状況の見通しを「1」から「5」の間で登録します。積極的に新件を受けたい状況なら「1」、標準的な業務量なら「3」、多忙すぎて新件を受任することが難しい状況であれば「5」を付ける、といった具合です。アソシエイト自身の「主観的な」申告であることと、過去1週間の事後的な報告ではなく、これから始まる1週間の「見込みの」記録であること、この2点がポイントです。 前述したように、仕事量のキャパシティは人によって異なりますし、その時に担当している案件の性質などによってもストレスのかかり具合は大きく異なります。そのため、実際に稼働した時間として登録されるタイムシート上の稼働時間だけを事後的に追っても、正確に本人の状況をタイムリーに把握できないことがあります。そのため、アソシエイト本人に業務状況の見通しを主観的に登録してもらうことが重要なのです。セクション制やチーム制を敷いている事務所であれば、各セクション・各チームで繁忙度を管理可能なので、このようなシステムは不要かもしれませんが、案件ごとに「オールTMI」でチームアップを行いあらゆる人があらゆる人と仕事をするTMIのやり方では、このような全事務所的なワークロードの管理が不可欠となってきます。 日々新しい案件がTMIに入ってくる中で、パートナー弁護士はこの一覧表を見ながら「5」を付けている弁護士や、直近で業務時間が長くなっている弁護士には仕事をアサインしないように注意する一方で、「1」や「２」を付けている弁護士には積極的に仕事をアサインすることで、全体バランスを図っています。 また、前述したHR弁護士の定例会などでもこの登録状況を確認しており、継続的に「５」を付けている弁護士については状況を個別にヒアリングし、対応検討の端緒としています。 またこの表には、業務状況の見通しだけではなく、案件の「実績分野」（これまでやってきた業務分野）と「希望分野」（これからやっていきたい業務分野）を記載する欄もあります。これらの項目についても、弁護士一人ひとりが1週間単位で記載を見直すことができるので、特に若手の弁護士にとっては、どのような領域について専門性があり、どのような新規案件を受けたいかを事務所全体にアピールすることができる場となります。このように、やってみたいことを「見える化」することで、先輩弁護士から新たな案件が舞い込んでくる可能性が高まるのです。

2. 週間業務状況見通し登録

業務量が多くなってしまったアソシエイトからヒアリングを行い、何らかの解決策を考えるための制度として、HRホットライン制度があります。本人からそのアラートを発することも可能ですが、もともとは、本人の申告によっては拾いきれない業務過多の状態にあるアソシエイトをキャッチしようという意図で構築された制度です。 実際、約95％は、アソシエイト本人ではなく、「〇〇弁護士がかなり忙しそうだ」などという形で周囲の弁護士から出されたアラートがきっかけになっています。ホットラインにレポートされたアソシエイトに対してホットライン窓口担当のパートナー弁護士（谷口弁護士や上﨑弁護士を含む）がヒアリングを行い、直近の稼働状況や案件のアサイン状況について話し合います。場合によっては、新しい案件を受任することを一時的に制限したり、現在受任している案件の担当パートナーと協議して当該アソシエイトの分担部分を減らしてもらったりといった調整を行います。事態が深刻化する前に本人と対話し、対応策を考えることで、早めのケアを実現でき、問題の長期化や心身の不調に陥る事態を防ぐことができるのです。

3. HRホットライン制度

一連の仕組みの中でも、バックストップ的に大切な役割を果たしているのはホットラインだと思います。ホットラインの問合せ先は、HRに所属しているシニアのパートナー弁護士ではなく、私や谷口弁護士など、比較的若手のパートナーです。アソシエイトの状態を見に行くと「まだ大丈夫ですよ」と言われることもある一方で、「聞きに来てくれてよかった」とホッと安心して色々悩みを話してくれる方もいます。 　なぜ私たち若手のパートナーが応えるかというと、同じ経験やキャリアを踏んできた自分たちの方が、弁護士の悩みの本質に寄り添って、一緒に解決策や次のステップを考えられるからです。また、アソシエイトと年次の近い私たちが直接の聞き手となることで、相談のしやすさを感じてもらえ、より具体的なアドバイスや助言が可能となるからです。また、ホットライン担当の弁護士の中でも、そのアソシエイトと一緒に多くの仕事をしているパートナーではなく、なるべく個人的な利害関係の少ない弁護士が話を聞くようにしています。そのパートナーの仕事で忙しくなっていたりストレスを抱えていたりする場合、話しにくくなってしまうからです。話を聞きに行った際の会話の仕方については、これまでも試行錯誤してきたのですが、基本的には「前向きな方向で解決してあげたい」と思っています。業務過多というのは一見するとネガティブな状況のように思えますが、実は一度立ち止まって、自分の働き方や中長期的なキャリアプランについて考え直す良い機会でもあります。今は大変だけれど、もしかしたらこうやって向き合っていけばいいのでは？など、弁護士と私たちは二人三脚で考えていきます。その結果、これまでの案件の受け方やチームの組み方において改善すべき点があることに気づき、働き方を考え直したり、新しい領域に挑戦してみようと決意される方もいます。うまく軌道修正できれば、これを機にキャリアが花開くことだってあるのです。 　このような本質的なケアは、外部機関の産業医やカウンセラーではできないこと。私たち弁護士がしっかり向き合うことで、安心して働けるんだよ、受け止めるセーフティネットがあるんだよ、ということを知ってほしいです。

究極的にはTMIに所属する全弁護士に仕事を面白いと思って、楽しく、安心して働いてほしい。その前提として欠かせないのが、目の前の業務を「自分が選んだ、自分の仕事」として捉えていることだと思います。誰かにやらされていて抜け出せないと思ってする仕事は、精神的に辛くなりがちです。そうではなく、まさに自分が今やりたい仕事だ、あるいは将来やりたいことを目指すためにスキルや知識を身につけられる仕事だと思って、主体的に仕事に取り組み、経験を積んでいく。長期的に成長できるような業務のポートフォリオを自分で設計する。そうしながら、仕事以外にも目を向け、また適度に息抜きも挟み、仕事を楽しむ心身の余裕を持つ。そのバランスを図ることは非常に難しいというのが実感ですが、ひとりで抱え込む必要はなく、TMIという組織で働いているからこそ、みんなでみんなを支え合い実現していけば良いと思うのです。ここで働く弁護士一人ひとりに、安心して、全力で挑戦し続けてほしいです。

アソシエイトの提案によって改善・洗練されたTMIのワークロード管理システム。改善当時、どのような課題を感じ、どのような対策を考えたのか。またこのプロジェクトの結果、どのような成果が見えてきたのか。アソシエイト弁護士の人事・育成を担当する組織「HR弁護士」の一員である大江修子弁護士、当時アソシエイトとしてシステムの発案に関わり、今ではパートナーになった上﨑貴史弁護士と谷口達哉弁護士に、当時の話を聞いてみた。

全力で攻め続ける弁護士にこそ、セーフティネットが欠かせない




2007年にTMIに参画。2008年にパートナー就任。2011年「HR弁護士」の設置に伴いそのメンバーとなる。専門領域は知的財産、JV・Distribution・ライセンス等の国際取引、国際争訟など。


2009年にTMIに入所。2018年にパートナー就任。業務量管理の仕組みを、アソシエイト時代に発案。専門領域はM&Aやリスクマネジメントを始め、医療・ヘルスケア、労働審判も含む。


2009年にTMIに入所。2017年にパートナー就任。業務量管理の仕組みを、アソシエイト時代に発案。専門領域は上場会社M&AをはじめとするM&Aやコーポレートガバナンスなど。